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相続放棄は年間30万件超|「残す側」が知っておきたい数字と終活でできる備え

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相続放棄は年間30万件超|「残す側」が知っておきたい数字と終活でできる備え

先日、中山美穂さんの21歳の息子さんが約20億円の遺産を相続放棄した、というニュースが話題になりました。相続税が約11億円にのぼり、10ヶ月以内に現金で納税できないため、放棄せざるを得なかったと報じられています。

このニュースを見て、「うちは20億円もないから関係ない」と感じた方もいると思います。自分も最初はそうでした。

でもデータを見ると、相続放棄はもう「遠い誰かの話」ではなくなっていました。2024年の相続放棄は年間30万件を突破。亡くなった方のうち約5.5人に1人が、相続を放棄される時代に入っています。

この記事では、最高裁判所の司法統計をもとに相続放棄の現状を整理しながら、「残される家族に放棄させないために、自分の終活で何ができるか」を一緒に考えてみます。


相続放棄は2024年、初めて年間30万件を突破した

最高裁判所事務総局が公表する「司法統計年報 家事事件編」によると、家庭裁判所で受理された相続放棄の件数は以下のように推移しています。

年次受理件数
2000年97,058件
2010年161,232件
2019年225,416件
2021年251,994件
2023年282,785件
2024年308,753件

出典:最高裁判所「司法統計(家事事件編)」各年度

2000年は約9.7万件でしたが、2024年は約30.9万件。25年で約3.2倍になりました。

年間30万件ということは、日本のどこかで毎日800件以上の相続放棄が起きている計算です。自分が親を見送ったときは相続放棄までは考えなかったのですが、今振り返ると「もしあの時、知らない負債が出てきていたら、自分も放棄を選んでいたかもしれない」と思うことがあります。


亡くなった人の5.5人に1人が「放棄される死」

数字の大きさを実感してもらうために、死亡者数との関係も見ておきます。

厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の年間死亡数は約157.6万人。同じ年の相続放棄は28.2万件でした。

項目2023年(令和5年)
年間死亡数1,576,016人
相続放棄受理件数282,785件
推定放棄率約17.9%

出典:厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」、最高裁判所「司法統計」

死亡者数と相続放棄件数を単純に割ると、約5.5人に1人が相続を放棄されている計算になります(実際は1人の被相続人に対して複数の相続人が放棄するため、放棄される方の割合はもう少し低くなる可能性があります)。

それでも、「亡くなった方のうちかなりの割合で、子や親族が相続を放棄している」という事実は動きません。自分が親を見送ったとき、葬儀社や司法書士の方から「最近は放棄が本当に増えている」と言われたのを思い出します。数字はその実感と重なります。


なぜ30万件を超えたのか:負債から「負動産」へ

相続放棄の主な理由は、かつては借金などの負債の承継回避でした。消費者金融の借入、連帯保証、未払いの医療費・介護費などです。これは今も変わらず大きな理由の一つです。

ただ、ここ数年の急増を支えているのは、別の要因だと言われています。

1. 「負動産」と呼ばれる売れない土地・家

ネットや不動産相談の現場では、相続したくてもできない不動産のことを「負動産」と呼ぶようになりました。

  • 地方の実家(固定資産税と管理費だけが出ていく)
  • 山林や農地(再建築不可・買い手がつかない)
  • バブル期に買ったリゾートマンション
  • 老朽化した空き家

こうした不動産を受け継ぐと、所有しているだけで維持費・税金・倒壊リスクが積み重なっていきます。だから「はじめからもらわない」という選択が広がってきました。

2. 2024年4月の相続登記義務化

2024年4月から、相続登記(亡くなった方の不動産の名義変更)が義務化されました。正当な理由なく3年以内に登記をしなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

これまでは「価値が低いから放置しておこう」と済ませていた実家の土地も、法律上の罰則が生まれたことで、早めに「受け取るか、放棄するか」を決めなければならなくなりました。2024年に件数が初めて30万件を突破した背景には、この義務化の影響もあります

3. 疎遠な親族からの突然の相続通知

「会ったこともない叔父さんの相続人になった、と家庭裁判所から通知が来た」——こういうケースも珍しくありません。第一順位の相続人(配偶者や子)が全員放棄すると、相続権は次の順位の親族に移っていきます。

通知を受け取った側は、故人の資産や負債の中身がわからないまま判断を迫られます。調べる時間も気力もない場合、リスク回避として最初から放棄を選ぶのが現実的な対応になります。


「おひとりさま」の死と相続財産清算人の増加

もう一つ、静かに進行している現象があります。

亡くなった方の相続人が一人もいない、あるいは全員が放棄した場合、家庭裁判所は相続財産清算人(以前は「相続財産管理人」と呼ばれていました)を選任します。清算人が残された財産を整理し、最終的に国庫へ帰属させる手続きです。

令和6年の司法統計では、この相続財産清算人の選任件数が2万8,331件に達しています(参考:山口県宇部市の相続実務家の解説)。

かつては年間数千件規模だった手続きが、今は年間約2.8万件。これは、受け継ぐ人がいないまま亡くなる方、あるいは親族に受け取ってもらえないまま亡くなる方が、それだけ増えているということです。

2040年問題と終活の記事でも触れましたが、多死社会と単身世帯の増加は、お墓だけでなく、遺産の行き場にも影響しています。


3ヶ月の期限:悲しみの中で刻まれるカウントダウン

相続放棄には、「自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という期限があります(民法915条)。

3ヶ月というのは、亡くなった方の葬儀・初七日・四十九日を終えるかどうかというタイミングです。本来なら悲しみに向き合う時間なのに、同時に財産の全体像を調べて、放棄するかどうかを判断しなければいけません。

自分が親を見送った時は、葬儀の準備と役所の手続きだけで精一杯で、相続のことまで頭が回りませんでした。もし負債があったら、この3ヶ月は本当に地獄だったと思います。

ただ、裁判所は形式要件さえ整っていれば、ほとんどの申立を受理してくれます。

項目令和5年度
受理件数281,681件
却下件数395件
却下率0.14%

出典:最高裁判所「司法統計」令和5年度

却下率はわずか0.14%。期限さえ守って正しい書類を出せば、ほぼ確実に受理されます。この数字を知っているだけでも、いざという時の不安は少し軽くなると思います。


中山美穂さんの事例が映す「愛の形としての放棄」

冒頭に触れた中山美穂さんの事例を、もう少しだけ整理しておきます。

  • 推定遺産:約20億円(都心マンション、楽曲の著作権、預貯金など)
  • 推定相続税:約11億円
  • 期限:相続開始を知った日から10ヶ月以内に現金で一括納付が原則
  • 21歳の長男(パリ在住)が相続放棄を選択

(報道内容はこちらの記事で整理されています)

21歳の大学生が、10ヶ月以内に現金で11億円を用意するのは現実的ではありません。マンションや著作権は、売却して現金化するのに時間がかかるからです。期限を過ぎれば延滞税が積み重なり、自分の人生に長く影を落とすことになります。

息子さんが選んだ相続放棄は、「お母さんが遺してくれたものをすべて手放す」という冷たい選択に見えるかもしれません。でも見方を変えれば、自分の人生を守るための決断であり、同時にお母さんの思い出を「重荷」にしないための選択でもあったと、自分は思います。

金額は違っても、同じ構造の判断を全国の家庭が下しているのが、年間30万件という数字の中身です。


「残される家族」に放棄させないための終活5項目

ここからが、この記事で一番伝えたい部分です。

自分は今、親を見送った側ですが、いつかは自分が見送られる側になります。そのとき、子や家族に「相続放棄しかない」と言わせない準備は、今からできます。

1. 負動産の生前整理

  • 使っていない実家・山林・農地などを、元気なうちに売却・寄付・引き取りサービス等で整理しておく
  • 価値がある不動産は誰が受け継ぐか、家族と話し合っておく
  • どうしても処分できない不動産は、相続土地国庫帰属制度の利用も検討する

自分が残すもので、受け継ぐ家族が困るものは何か。一度冷静に棚卸ししておくと、家族の将来の判断がずっと楽になります。

2. 借入・保証の整理と情報共有

  • 借金、連帯保証、分割払いの残債があるなら、全て1枚の紙にまとめておく
  • 隠さない。隠すと、亡くなった後に家族が一番苦しみます
  • 返せるものは生前に整理し、残るものは家族と共有する

自分の親は生前、小さな負債を隠していた時期がありました。本人は「迷惑をかけたくない」と思っていたのでしょうが、亡くなった後に家族が負債の存在を追いかけるのは、想像以上に重い作業でした。

3. エンディングノートで「資産と負債の全体像」を残す

  • 銀行口座、証券口座、保険、年金、不動産、負債をひとつのノートに書き出す
  • 連絡すべき相手(税理士、司法書士、弁護士など)の連絡先も記載する
  • 毎年見直して情報を更新する

エンディングノートは遺言書のような法的効力はありませんが、家族が3ヶ月の判断期間を有効に使うための「地図」になります。書き方はエンディングノートの書き方にまとめています。

4. お墓と祭祀継承を明確にしておく

相続放棄の背景には、「お墓の管理まで押し付けられるのは重い」という心理も働いています。

  • 継承者がいない場合は墓じまいを検討する
  • 永代供養・樹木葬・海洋散骨など、管理が続かない供養方法を選ぶ
  • 祭祀継承者(お墓・仏壇を引き継ぐ人)について、遺言書で意思表示しておく

お墓は相続財産ではなく「祭祀財産」という別枠ですが、実務上は相続と一緒に悩みの種になります。切り分けて準備しておくと、家族の負担が軽くなります。

5. 信頼できる専門家を家族に共有する

  • 税理士・司法書士・弁護士のいずれかに、生前から相談窓口を作っておく
  • その連絡先を家族に共有する
  • 「わからないことがあればこの人に聞けばいい」という状態を作っておく

自分の親は、知り合いに弁護士がいたので困った時に頼れました。でも、突然「誰に聞けばいいかわからない」状況で3ヶ月の期限と向き合うのは、本当に厳しいです。


まとめ:相続放棄は冷たい選択ではない

データをもう一度整理します。

項目数字
2024年の相続放棄受理件数308,753件(初の30万件突破)
25年間の増加率約3.2倍(1997 → 308,753)
年間死亡数に対する放棄率約17.9%(5.5人に1人)
相続財産清算人の選任年間28,331件(令和6年)
却下率0.14%(ほぼ受理される)
申立期限相続開始を知った日から3ヶ月

年間30万件という数字は、冷たく見えるかもしれません。でも1件1件の背景には、家族なりの事情と決断があります。「放棄した人が冷たい」のではなく、放棄せざるを得ない状況が当たり前になった。それが今の日本の現実だと、自分は受け止めています。

そして、残される家族に「放棄以外の選択肢」を残せるかどうかは、残す側の準備次第でもあります。終活の目的は、自分がきれいにこの世を去ることではなく、残された人たちが迷わないための地図を置いていくことだと、親を見送った自分は考えるようになりました。

終活の進め方全体については終活の始め方|やることリストと手順で解説しています。親を見送ったあとの遺品整理のリアルは遺品整理はいつから始める?に、葬儀費用の全体像は葬儀費用の相場はいくら?にまとめています。


この記事で引用したデータの出典:


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数年前に親を家族葬で見送りました。葬儀・お墓・終活について、経験者の目線でわかりやすく情報を届けています。

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